話を聞く力を伸ばすには?

人の話を聞く力を伸ばすメリットについて、以前書いた内容が意外に関心を持ってもらえている。

人は基本的に聞くことより話すことの方が好きだし、多くの人が聞く能力よりも相手に伝える能力を伸ばす方に圧倒的にフォーカスしているため、そんなに関心を持たれにくい分野なのではないかと思っていた。しかし、勘違いなのかもしれない。

話を聞くことが好きになると、人生が完全に変わる

2019年8月21日

そこで、もし今から話を聞く力を伸ばしたいという人がいた場合に、どうアドバイスをするだろうかという具体論について真面目に考えてみる。

聞き続ける実践

傾聴のノウハウとして、よく頷くこと、オウム返し、途中で相手の話を要約することなど様々なテクニックが一般的に語られる。

もちろんそれらは有効だと思うし、最終的にはできるに越したことはないのだが、話を聞くことができるようになった後で身につければ十分だと思う。

話を聞くことができるようになった後」!?
それは誰でもできるのでは…とつっこまれそうなのだが、その基本的な部分が一番難しいのだ。

というのも、聞くよりも話す方が好きな人が多いということは、現実的に起こる現象としては次のようになる。

2人での会話をイメージしてほしい。単純に考えると、相手の話を注意深く聞き続けるというよりは、どこか途中で自分が話したくなったタイミングでカットインして話す。

相手からすると、本当に話したいすべての内容を話しきる前であることがほとんどだが、仕方ない。逆に今度は自分の話を最後までする前に、相手が話したいタイミングでカットインする。それをお互いに繰り返す。これがよくある会話ではないだろうか。

よく考えると、普段の会話でのやりとりは、聞きたいことを深掘りし合うというコミュニケーションではなくて、言いたいことを言い合うコミュニケーションだ。

だが、こういうコミュニケーションに慣れていると、最後まで黙って聞くということがもう既に出来なくなっている。

まず何よりも重要なのが、相手の話に口を挟まずに聞き続けることだ。そしてそれを体育会系の部活の練習のようにひたすら習慣になるまで繰り返すことだ。小手先のテクニックは後で構わない。

聞き続けて起こる変化

相手の話を聞いていて、普段なら自分が話そうと割り込むタイミングで黙っていると、あることに気づく。こちらが何も言わなくても相手は話し続けてくれるという事実だ。

もちろん、初対面とか、そもそも相手との信頼関係がない場合は別だが、こちらが無理に話そうとしなくても聞こうという姿勢さえあれば、相手は話し続ける。そこに気づくことは、聞き上手になる大きな一歩だと思う。

もちろん、相手から話を振られたり、意見を求められた場合は自分の話したいことを話せば良いのだが、また相手が話したそうならばそちらに主導権を渡して聞き続ける。

それを筋トレのように続けていくと、会話の中でお互いが話そうとして止まる瞬間にも、自分が譲ることが多くなり、どんどん相手が話してくれることに気づくようになる。

そのうち、「話を聞いてくれてありがとう」のような、話を聞いてくれたことに対する感謝のフィードバックが増えてくる。人によっては「こんなに聞いてもらえたのは久しぶり」「また話してもいい?」など明らかに自分を必要としてくれるような内容も伝えてくれるはずだ。それが増える頃にはかなり聞き上手になっている。

そこまでいくと、地理的に遠く離れていても、仕事などの接点がなくても、相手側から勝手に連絡が来るようになる。いや、本当だ。試してみてほしい。それほどまでに、相手の話を聞き続けて理解しようという人は少ないのだ。

世の中には相手の話を聞いて積極的にアドバイスをしようとする人は山ほどいる。しかし、彼らは往々にして、途中から自分が話すことに夢中になってしまう。相手の心の奥にある繊細な感情を最後まで吐き出してしまう前に。

相手の感情に耳を傾ける

そしてもう1つ。自分が話したいことを一旦置いて、相手の話を聞き続ける経験を積むと、相手の感情の流れが自分の中に入ってくるようになる。

おそらく普段私たちは自分が話そうとしすぎるために、相手の感情の声を聞くというタスクを途中で切る傾向にある。相手の話を聞きながらも、自分が次に話す内容を考え出す現象なんかはその典型だ。

じっくりと相手の話を聞くことは、ただ相手の話に耳を傾けるだけではなく、相手の感情に耳を傾けることだと思う。その流れが強く感じられるようになったら、小手先のテクニックは、相手の感情を包み込むような形で勝手にできるようになる。

というわけで、地道だが、話を聞き続けることを筋トレのようにやり続けるのが聞き上手への1番の近道だ。

聞き上手への落とし穴

こんなにシンプルな、聞くという能力がなぜ上達しにくいのか。1つ大きな落とし穴があると考えている。

それは、年齢や地位が上がるにつれて、自分が話を聞く側ではなく話をする側だと錯覚しやすいという現象だ。

年齢や地位が上がるにつれ、自分が何かを下の人に教えるという機会が増える。そして経験がある分、自分が話をする立場だという気持ちにも自然になりやすい。

その結果、子供の話を聞くよりもああしなさい、こうしなさいと子供に自分が話すばかりの親や、部下の話には関心を持たず、自分の過去の栄光や考えをひたすら話したがる上司が多く存在している。実際は聞き上手の親や上司が素晴らしい教育者であるにもかかわらず。

違う見方をすれば、その人が聞き上手なのかどうかは、下の人に対してどう接しているかに露骨に表れる。上の人の話は基本的に多くの人が聞くことになる。問題は下の人だ。

もしあなたが年齢や役職が下の人と話す際に、聞き役に回っており、本音を伴う多くの相談を相手がしてくるようならば、あなたは聞き上手なはずだ。一般的に話す側になりやすい上という立場でさえも、逆に聞くことができているのだから。

下の人と自分の関係を見るだけで、自分の話を聞く力は簡単に測ることができる。極めてシンプルだ。

うまく話すとか、わかりやすく伝えるという技術は華やかで、光が当たりやすい。しかし、人間同士が信頼を深めるにおいて重要なのは、むしろ、聞く力だと確信している。

毎日繰り返しているコミュニケーションに関して、今一度立ち止まって深掘りしてみてはいかがだろうか。

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ABOUTこの記事をかいた人

IQ155オーバーだが、自信があるのはEQ(心の知能指数)の方で、繊細な感受性の持ち主。 大学時代に週末はあらゆる大学生と人生を語り合うことに費やした結果、人を見下していた尖り切った人生から、人の感情を共感し理解する相談役の人生へとコペルニクス的転回を果たす。 これからの時代は感情の時代になると確信しており、感情のあり方が幸せに直結するとの考えから、複雑な感情の流れを論理的に整理することに挑戦している。 モットーは Make the invisible visible 詳しい自己紹介はこちら