自分が話せば話すほど相手を理解したと勘違いしてしまう罠

ずっと疑問に思っていたことがあった。自分のことを知らないはずなのに、あなたのことに関してはもうわかってるという態度の人が存在するのはなぜなのだろうか。身近なところでは親に対してそう感じる人もいるだろうし、学校の先生や仕事の上司が対象のこともある。

例えば上司との面談。君はこういう人だよねと言われるが、実際には全然違う。そんな経験をしたことがある人はそれなりにいるだろう。

私の場合、上司との対話は聞き役に回ることが圧倒的に多く、自分の話は基本的に聞かれない限りしなかった。となると、私が上司を知っているというのならばまだ成り立つとしても、上司が私を知っているというのはあまり成り立たないはずなのだが不思議だ。

また、複雑な親子関係の仲裁に入るような役割を何回も経験してきて、不思議な現象を目の当たりにしてきた。親に個別に話を聞くと、うちの子はこうでこうでと子供のことを理解しているかのように話す。

その後に子供の方に個別に話を聞くと、実は親には本音を言ってないんです…と、親の認識とは全然違う答えが返ってくる。どうやら親に対して心を開いていないらしい。

誤解を恐れずに言えば、この種の相談で、ご両親から見たお子さんの話はあまり役に立たないことが多かった。親は子供のことを理解していると認識しているにも関わらず…だ。いつも一緒に生活していても、気持ちが通い合っているわけではないというのは当然と言えば当然なのだが…。

ただし、1つだけとても気になることがあった。肌感覚ではあるが、こういった家庭の会話は親が基本的に話す側、子供が聞く側であることが多いように感じることだ。

論理的に考えよう。親がいつも聞き役に回って子供の話を聞いているから子供のことを理解している。この論理展開なら違和感がない。

しかし、親がいつも話す側に回っているのに、子供のことを理解していると認識している??これは論理的ではない。親が話しすぎて子供の気持ちが理解できていないと自覚しているならまだわかる。しかし、そういう様子はあまりない。

これは、最初に述べた上司との面談と全く同じ現象だ。一体何が起きているのだろうか。

話すことが意味するもの

アメリカの心理学者、ジェームズ・ペネベーガーは自分のことを話す意味に関して、ある実験を行った。(1)(2)

まず、互いに面識のない人を少人数のグループに分け、自分の興味ある話題に関して15分話してもらう。そして15分後、自分どのくらいそのグループを好きなったか評価する。

結果はシンプルで、話せば話すほど好きになる。人間は基本的に話すことが好きである以上、これは普通の結果だ。

続いて、グループの人についてどれだけわかったのかを評価してもらった。言うまでもなく、グループの人を理解しようとするならば彼らの話を聞くことが必要になる。つまり、自分が話さなければ話さないほどグループの人についてよく理解できるはずだ。

しかしペネベーガーは、実際の結果は全く逆であることを発見した。

人は、自分が話せば話すほどグループの人について理解したと思うものなのだ。

話を聞かないという危険な行動

さて、これで冒頭の上司や親子の謎が解けた。

しかしそう考えると、人の話を聞かずに自分が話す傾向のある人は重大なリスクを抱えることになる。

自分が話すことで満足して、相手を理解したつもりになりやすいということは、相手に対する見方が間違っていることが多く、相手からの信頼を失いやすいということだ。

ここでさらに考えなければならない。あなたは誰かから理解されていないと感じた時に、それを相手に毎回伝えるだろうか?

もちろんその人との関係性にもよるだろうが、毎回伝える人などほとんどいないのではないだろうか。

とするならば、自分が話したがる傾向の強い人は、自分でも気づかないままに周りからの信頼を失っている可能性がある。相手からのフィードバックが来ない場合は、自覚もできないので、改善も難しいだろう。なんということだ。

話す側と聞く側の分かれ目

自分が話してばかりの人なのか、聞き上手なのか見分けるのはそんなに難しくないと思う。

聞き上手な人は、仕事関係の人や、今身近にいる人以外からの連絡がとにかくくる。特に用事がなくてもだ。人間は誰でも、自分の話をよく聞いて理解してくれるような人を求めているからだと思う。この人ならわかってくれるから連絡したいというわけだ。

逆に、自分が話してばかりの人は、仕事などの一時的に必要な関係が無くなったら一気に周りから必要とされなくなり、孤独になると考えられる。仕事が完全に無くなった時に、自分にどれだけの連絡が来るだろうかという観点は、残酷だが重要だと私は考えている。

もちろん、自分の話をするなと言っているわけではない。私たちは自分が思っている以上に相手のことを理解していないのに理解していると勘違いしやすい。だから相手の話を聞いて理解することを大切にし、その能力を磨いていくべきなのだ。

以前も書いたように、世界は圧倒的な話し手過剰、聞き手不足だ。こんなに需要と供給のアンバランスな分野が他にあるだろうか。

参考・引用
(1)アダム・グラント『GIVE &TAKE 「与える人」こそ成功する時代』三笠書房、2014年
(2)ジェームズ・ペネベーガー『オープニングアップ:秘密の告白と心身の健康』北大路書房、2000年

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IQ155オーバーだが、自信があるのはEQ(心の知能指数)の方で、繊細な感受性の持ち主。 大学時代に週末はあらゆる大学生と人生を語り合うことに費やした結果、人を見下していた尖り切った人生から、人の感情を共感し理解する相談役の人生へとコペルニクス的転回を果たす。 これからの時代は感情の時代になると確信しており、感情のあり方が幸せに直結するとの考えから、複雑な感情の流れを論理的に整理することに挑戦している。 モットーは Make the invisible visible 詳しい自己紹介はこちら