緊急時にこそ表れる人間性

自分の人生に大きな影響を与えてくれた、非常にお世話になった方がいる。

アイビー・リーグでMBAを習得したエリートかと思えば、常に体を鍛えていてスポーツマンだったその人は、山でのハンティングを好んだ。

本人曰く、険しい山に登ると人間性が表れるらしい。普段どんなに良い顔をするイエスマンでも、体力的、精神的に追い詰められると本性が出る。

特に顕著なのが弱音や不平不満などのネガティブな思いだ。緊急時には人間は極めてナーバスになり、その状況を誰かのせいにしたくなるし、自分のせいではないと自己正当化する。

思いやりは影を潜め、今自分ができることにフォーカスを当てるよりも、批判的な感情をぶつける矛先を探す。

その方は人間性を見る意味で、部下を厳しい登山によく連れていっていた。通常時に見えるものなんてあまり当てにならないと言わんばかりに。

そして、その方自身は自分自らを厳しい状況に追い込んでも、ポジティブに乗り越える強いリーダーだった。

混迷する世界情勢の中で見えるもの

いわゆるコロナウイルスがこれだけ猛威を奮っているわけだから、現在は緊急時そのものであるが、同じように見えるものがある。

先に言っておくと、これだけの身体的、経済的被害を伴う状況で、精神的に追い詰められてネガティブになっている人を責めるつもりは一切ない。それは仕方ない。

ただ、この状況を客観的に認識しながらも決して不平不満を言わず、何かのせいにすることなく黙々と自分ができることをやっている人、追い込まれているからこそ当たり前だったものにむしろ感謝している人、そういった人たちを見つけたらその人たちとの関係を大事にすることをオススメする。

例えば、Twitterをよくよく観察していると、周りの多くの人が感情的になり不平不満や愚痴や批判に終始している中で、黙々と有意義な発信を繰り返している人がいる。

彼らは緊急時であるからこそ自分ができることに集中し、不必要に感情的にならないことを心がけている。頭が下がる思いだ。

また、困難な状況を自ら晒し、自身を教訓にしてほしいという発信をする人も見つかる。状況を見ると、とても自分のようにならないでほしいと周りを気遣うような余裕はなさそうに思えるにもかかわらず、そういう人は怒りや嘆きをどこかにぶつける代わりに、同じ被害者を出さないよう建設的な発信をすることを自ら選択している。

自分が同じ状況に立たされた時に、そのような選択ができるだろうかと思うと尊敬するばかりだ。

アメリカ海軍での逸話

文章を書きながら思い出した内容がある。アメリカ海軍のエピソードだ。

「1日1つ、なしとげる! 米海軍特殊部隊SEALsの教え」(講談社、2017年)では、厳しい訓練を経る過程で、意図せずして途中で不幸に見舞われる事例が紹介されている。(1)

訓練の中で大事故に遭い、軍人としての生命を絶たれるケースや、海外の戦地で地雷を踏み、足がなくなった仲間のエピソードなど、どれだけ努力しようともなすすべなく不幸にあう事例は存在する。

しかし、本書ではそんな困難にも関わらず、ポジティブに次なる可能性を見出し、第2の人生を明るく生きる軍人たちの姿が描かれている。

私はとても不思議に思った。アメリカ海軍の特殊部隊SEALsは、そもそもよほど強い動機がなければ残れない。訓練生である半年を通過できるのが、そもそも2割程度だそうだ。

つまり、強烈に懸けているものがないと入ることさえ難しいということだ。しかし、懸けているということは、それを失った時のショックはあまりにも大きいということでもある。

なんとなく入った会社でやっていけなさそうだから転職するか、というノリにはならない。どちらかというと、プロスポーツ選手が大事故で選手生命をたたれるようなものだろう。

懸けているものを失った時、人間は恨みになりやすい。その原因になった犯人探しをすることで、自分の感情を納得させることもあるだろう。(特にアメリカならすぐ裁判に持ち込みそうだと考えるのは、裁判もののアメドラの見すぎなのだろうか)

本書によると、軍人たちがそんな逆境でも次の人生を踏み出せるのには理由があるらしい。

彼らは、厳しい訓練の中で、人生は時に、どう頑張っても理不尽な目に遭うし、不公平なものであるということを学ぶという。そして、それらを受け入れて前に進むことの大切さを身につけなければ、そもそも軍人になれないというわけだ。

考えてみれば当然なのだが、戦場や訓練で最悪死ぬことが前提になっている軍人が、理不尽を受け入れる準備ができていなければ確かに大変なことになってしまう。

我々一般人は、理不尽を受け入れるという前提をそもそも持っていない場合が多い。この軍人のあり方は、私の心に多くの問いを投げかけてくれた。

理不尽との付き合い

自分自身が、緊急時に困難に見舞われ、それでもそれを受け入れることができるだろうか。そのためには、日常的に起こる小さな理不尽との付き合い方を変えていかなければいけないのだろうと思う。

小さい理不尽に対してもいちいち腹を立て、不平不満に陥る自分を認識し、受け入れるという強さが必要だ。それは、習慣的に向き合っていく必要のある性質があるものだろう。一朝一夕にはいかない。

そういう意味においても、今この大変な時に、理不尽を受け入れ前向きに昇華している人にこそ、良い意味で注目が集まることを願うばかりだ。そういう人は尊敬に値するし、間違いなく善人だ。近くにいるだけであなたの人生を豊かにするだろう。

(1)ウィリアム・H・マクレイヴン『1日1つ、なしとげる! 米海軍SEALsの教え』講談社、2017年

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

ABOUTこの記事をかいた人

IQ155オーバーだが、自信があるのはEQ(心の知能指数)の方で、繊細な感受性の持ち主。 大学時代に週末はあらゆる大学生と人生を語り合うことに費やした結果、人を見下していた尖り切った人生から、人の感情を共感し理解する相談役の人生へとコペルニクス的転回を果たす。 これからの時代は感情の時代になると確信しており、感情のあり方が幸せに直結するとの考えから、複雑な感情の流れを論理的に整理することに挑戦している。 モットーは Make the invisible visible 詳しい自己紹介はこちら