結論重視のコミュニケーションで失うモノ

「で、結局何が言いたいの?」「結論は?」「要はどういうこと?」

ビジネスの場では特にそうだが、人々は結論を急ぎ、過程や感情を切り捨てるように圧力をかけられる。まるで、結論から先に話すことが基本的に正しいことであるかのように。

確かに、結論から話すということは、話の目的や結果が伝わりやすく、相手にとってストレスを感じにくい。コミュニケーションの目的が報告や議論などの場合、このやり方は無難だ。今更考えるまでもない。

その反面、結論重視のコミュニケーションのデメリットに触れる人はあまり多くない。少なくとも私は人生でそんな話を聞いたことがない。

だが、明確にデメリットがあると考えている。コミュニケーションで何を重視するかということは極めて重要なことなので、この際、結論至上主義に疑問符を投げつけてみたい。

結論ありきが邪魔になる場合

コミュニケーションの目的が気持ちの共有や相手への理解を求めるというニュアンスのものだった場合、結論から話すのはあまり良い結果を望めない。

男女を問わず女性的な感性が強い人は、こういった共感や理解を求めるコミュニケーションを重視する傾向があるため、結論重視のコミュニケーションが苦手な人も多いのではないだろうか。

では、なぜ結論重視のスタイルと共感や理解のコミュニケーションは相性が悪いのか。考えてみたい。

その理由の1つは、話し手が結論を伝えた時点で、聞き手にはその結論に対する自分なりのバイアスがかかるからだと思う。

話し手がその結論に至る過程には様々な事情や感情が明確に存在する。もちろん、聞き手にはそういった事情や感情はまだわからない。しかし、結論が出ている以上、聞き手側は自分なりにその結論に対して善悪の判断や、それならこうしたらいいなどといった次のアドバイスを考え始める。

あなたが何かを失敗した時に、本当は仕方ない事情があったにもかかわらず、結論だけ言ってすぐに怒られるような経験をしたことがないだろうか。

その後事情を説明して、ちゃんと理解し直してもらればまだ良いが、相手によっては一度怒ってしまったためもう引くに引けず、今度は違う観点からまた怒られるという残念な経験をしたことがあるのも私だけではないはずだ。

話し手が伝える結論が、相手に真意とは違いネガティブに解釈された場合、修正するのは大変面倒になる。

かと言って、聞き手に対して、簡単に判断せず、話し手の意図を最後まで汲み取って聞いてもらうことを願うのはあまり現実的ではない。特に日本人は善悪の判断をすぐにつけたがる傾向がある。

そう考えると、当初の目的だった共感や理解はおろか、そもそも誤解で終わってしまう可能性もある。そこに、結論を先に持ってくる難しさがある。

過程を味わう

小説やドラマ、アニメでは最終的な結論に向けて、実に緻密な伏線が準備される。登場人物の何気ない会話や、意味のわからない言動が少しずつクリアになっていき、その過程に息を飲む。

ONE PIECEとはそもそも何なのか、誰がラスボスなのか、ファンは細かい描写を逃すまいとしながら、考察を深く積み重ねることに喜びを見出す。

名探偵コナンであれば、黒の組織とはそもそも何で、黒幕は誰なのか、様々な説が飛び交いその一つ一つを吟味する。

結論が最初からわかっていたらつまらない。登場人物たちとプロセスを共にし、同じ感情や思考を共有していく楽しみを文化として高いレベルに昇華してきたのがまさに日本だと思う。

日常のコミュニケーションでは、アニメやドラマのような劇的な展開は起こらないかもしれないが、それでも結論だけではなく、過程を味わうスタイルがもっと重視されても良いと思わずにはいられない。

結論を急ぐことなく、お互いの話にじっと耳を傾けながら、感情や事情を共有していくのだ。もちろんその中での推理や深掘りにも、とても味わいがある。

結論重視のコミュニケーションはもちろん場合によって必要にはなるが、ビジネスの場面で必ず強調されるこの方式に比べて、過程重視のコミュニケーションが強調されるシーンはない。

となると、強調される機会がある結論重視のコミュニケーション方式にバランスとして傾いていくのが普通なのかもしれない。

どちらかが正しく、どちらかが間違っているわけではないが、もう少し過程を楽しむコミュニケーションにも光が当たっても良いのになーと、忙しい現代人を見ていると少しもどかしい。

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IQ155オーバーだが、自信があるのはEQ(心の知能指数)の方で、繊細な感受性の持ち主。 大学時代に週末はあらゆる大学生と人生を語り合うことに費やした結果、人を見下していた尖り切った人生から、人の感情を共感し理解する相談役の人生へとコペルニクス的転回を果たす。 これからの時代は感情の時代になると確信しており、感情のあり方が幸せに直結するとの考えから、複雑な感情の流れを論理的に整理することに挑戦している。 モットーは Make the invisible visible 詳しい自己紹介はこちら