書評『ハートドリブン 目に見えないものを大切にする力』

出版前から気になっていた『ハートドリブン 目に見えないものを大切にする力』(幻冬舎、2019)を読み終えましたので、少しばかり所感を残そうと思います。

まず何よりも、とても晴れやかな気持ちで読み終わりました。本のテーマは、目に見えない心や感情を大切にするというものですが、本書はビジネスの文脈で語られているという違いがあるとはいえ、まさにこのブログで書き続けてきたテーマと同じで共感できる内容ばかりです。

どういう人にオススメできるか

書評としては、特に素晴らしいと感じた点を3点に分けて紹介しますが、その前に読者としてはどの層に刺さりやすいのか思うところを意見しておきます。

まず大学生以下の層には間違いなくオススメです。働き方の幅という観点で、今が日本における一つの節目になっているので、仕事の実際や将来の様々な選択肢を知る意味で必読と言えると思います。また、同時に目に見えるものに重きを置いた従来の働き方がどのようなものかも知った方がいいでしょう。

同じく20代30代の若手の方に対しても文句なくオススメです。まだまだ働き手としての未来が長いため、これからを考える上で参考になります。本書の内容が今の働き方や今までの経験と違うと感じても、キャリア自体が短いため柔軟に捉えたり、受け入れたりしやすいと思われます。

逆に、それより上の世代になると、今まで常識とされてきたものや、積み上げてきた価値観と真っ向から反する可能性が高くなり、扱っている内容が感情という抽象度が高いものであることも相まって、そもそもピンとこない可能性が高くなると思います。あるいは、理解はできるが今までの自分の経験を否定されるような印象を受けてしまい、気持ちとして納得できないと感じるかもしれません。

それでも、今の働き方や組織のあり方に疑問や違和感を感じている方ならオススメですが、今の働き方になんの違和感も感じず、むしろこれまでの経歴に対する誇りがあるような方にはあまりオススメできません。

それでは、特筆すべき点に移ります。

感情を大切に経営するという意味が、具体的にわかる

一言で感情を大切に経営すると言われても、抽象度が高すぎて意味がわからないですし、そりゃそうだよなぁくらいにしか受け取れないと思います。

しかし、本書は経営者目線での具体的な顧客や社員、経営者自身の感情を大切にする取り組みが随所に描かれており、こういう取り組みをしていった結果こうなったという、データではない生きたプロセスを知ることが出来ます。内容が俯瞰視点ではなく、経営者視点の生々しく生きている物語のように感じられます。

逆に言えば、多数の企業を対象に具体的な調査を行った結果から、感情を大切に経営することが必要だとわかったというようなエビデンスや研究ベースのビジネス書ではありません。

失敗の連続をはっきりと描いている

経営者自身の失敗体験や、リアルな苦悩など普通ならばあまりさらけ出したくない内容までも赤裸々に描いています。

そうしたことから、脚色や自慢という印象を受けず、等身大の物語という側面を感じやすい分、感情移入がとてもしやすいです。

成功者としての側面をひたすら強調したエッセンスのようなものを求めている方にとっては少し違う内容かもしれませんが、経営者といえど、1人の人間として苦悩し葛藤しながらようやく成長していくという描き方に共感を持てるならば刺さる表現方法だと思います。個人的には本当に嫌味がなく、筆者の人柄を感じられて好印象でした。

人間としての成長に強く重きを置いている

本書は方法論的な、どうやるのかというDoingに焦点を当てたものというよりは、自己啓発書などに見られるどうあるべきかというBeingに強く焦点が当たっています。

その中でも、意識や心構えを説いているという次元ではなく、その奥にある自分でも気づいていない観念や感情のクセともいえる特性を扱っているのが素晴らしいと思います。

何が違うかと言えば、意識や心構えというのは一時的に変えることは可能なのですが、定着はしにくいです。その奥にその人の観念や感情の癖のようなものがそもそもあって、すぐに戻ってしまうからです。

例えばポジティブでいることが何やら心身の健康に良いらしいと自己啓発書に書いてあったとします。根拠となる研究もあり、それが信じるに値するものだとしても、それを見たからといってそれ以降ポジティブであり続けるのは簡単ではないでしょう。

それは、意識や心構えの話をされても、その土台にあるその人の感情特性がそもそもポジティブになりづらい場合が多いからです。注意ばかりされて育ってきた故にいつも最悪のケースを想定するクセがある人や、ネガティブに想定した方が傷つかずに済むという感覚をこれまでの人生で無意識の中に築いてきた人もいます。

そういう意味で、意識や心構えだけ変えようとしても難しいことが多いと思われますが、本書ではその土台にある自分の中の偏った観念に気づくことの意味を、ユニークなメタファーを用いてわかりやすく表現しています。正直とても感心させられました。

自分の人間性の向上なしに周りに良い影響を与えることはできないという考え方で、とても本質的なプロセスが描かれているので必見です。特に、それを経営戦略や組織論などの方法論や技術面の話題にいつも晒されている経営者が実践しているので興味深いです。

そういった内容のことを魂の進化と本書では表現されていますが、そこから私は2つのことを感じます。1つは、多少不思議な表現であれ、人間の心や感情、内面の成長が重要だということを出し惜しみなく表現しようという筆者の信念の強さ。そしてもう1つは、魂の進化に該当するような言葉が既存の表現の中にあまりないということが、この種の内容が曖昧にされてきたことを物語っているのではないかということです。

まとめ

長くなりましたが、端的に表現するならば、これからくるであろう感情の時代に対する未来予測と、その結論に至った今までのビジネスでの成功や失敗を筆者の感情を隠すことなく描いた色濃い物語といった感じでしょうか。これを読むと、何が私たちにとって幸せなのか、私たちが日頃自分の感情をどれだけ後回しにしているのかなど、見失っていた大切なものに再び焦点を当てさせられるような心地がします。内容は間違いなくビジネス以前に人として考えさせられるものなので、ビジネスパーソン以外にもオススメです。

参考・引用
塩田元規『ハートドリブン 目に見えないものを大切にする力』幻冬舎、2019年

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ABOUTこの記事をかいた人

IQ155オーバーだが、自信があるのはEQ(心の知能指数)の方で、繊細な感受性の持ち主。 大学時代に週末はあらゆる大学生と人生を語り合うことに費やした結果、人を見下していた尖り切った人生から、人の感情を共感し理解する相談役の人生へとコペルニクス的転回を果たす。 これからの時代は感情の時代になると確信しており、感情のあり方が幸せに直結するとの考えから、複雑な感情の流れを論理的に整理することに挑戦している。 モットーは Make the invisible visible