人間観察マニアが勧める他者理解のための必読書3冊

ストレングスファインダーというツールをご存知だろうか。(1)

その名の通り、その人の強みとなる思考や感情の特性を発見する才能診断ツールとも言えるもので、開発したのは調査機関として名高いアメリカのギャラップ社だ。

このツールでは、177という膨大な質問に答え、34の資質の中でどれが自分の強みとなり得るかを明らかにすることができる。

34の資質の中には、例えば「未来志向」「社交性」「ポジティブ」「学習欲」など、幅広い要素が存在するのが面白い。

以前から私は、仲間内でこのツールを自己認識や相互理解を促すために役立てていたが、ある出来事をきっかけに、ストレングスファインダーの限界に直面した。

自分自身をメタ認知する難しさ

ある時、友人から連絡があった。以前一緒にストレングスファインダーの結果を共有したことがある友人だ。

どうやら働いている部署で、一斉にストレングスファインダーを受けることになったらしい。お互いの長所を知り、仕事上の人間関係を円滑にすることが目的のようだ。

しかし、ある人物の結果が衝撃的なものだったという。

その人は友人の同僚で、34の要素のうち1番高いとストレングスファインダーに示されていた資質は「共感性」だったが、その同僚の実態は共感性という言葉とかけ離れていた。

その同僚である女性は仕事ができる反面、人格的には周りから難しく思われていた。例えば、何か自分に非があった場合には一切認めず、他人の失敗は細かく発見し追及するところがあり、仕事の人間関係でも彼女とトラブルを起こしたが故に、部署を異動したり、退職するなどの選択を強いられた人たちがいた。

私の友人も、その同僚の存在で鬱になった時期があり、上司も彼女の性格を理解している反面、仕事ができる故に曖昧にされてきたとのことだ。

他者を排斥し、自分のおかげで仕事が回っているという強烈な自負心に包まれた、典型的なテイカーである。当然、「共感性」は周りから見た場合、残念なほどに欠けていた。

それでは、どうして彼女の資質として、「共感性」がトップに上がったのだろうか。

答えはシンプルだ。自分自身をメタ認知(自己客観視)できていないからだ。

あなたの周りに、どうしてそんなことが出来るのだろうかと驚くくらいに自分の自慢話やマウントを取ることに躍起になり、愛されたい認められたい雰囲気を常時醸し出すような人はいないだろうか。

それに対して、多くの人は疑問に思う。なぜそんなにあからさまに承認欲求丸出しなのだろうかと。恥ずかしくないのかと。

しかし、そういう人たちはそもそも自分の承認欲求が全面に出ているとは全く気付いていない。むしろ自分自身をメタ認知できていないからこそ全面的に自己中心的になれるのだ。

自分の自己中心的な感情をそんなにも垂れ流しにしていると自覚しているのであれば、恥ずかしくて続けられないだろう。

メタ認知力を上げる方法

では、なぜ自分自身を客観視できないのか。自分のことに必死で他人にあまり関心がないからだ。

自分がどういう思考や感情を持っているかというのは、単純に他人との比較で決まる。自分の周りの人の個性を深い次元で理解すればするほど、自分とは違うという当たり前の結論に衝撃を受ける。

こういう体験を繰り返すほどに、自分と他者の違いから来るところの自分の個性を発見していく。自分では当たり前だと思っていた思考や感情の癖が、実は独特のものだったと気づく瞬間はとても甘美なものだ。

この現象は、海外に移住してその国の文化に触れれば触れるほどに日本の理解が進むのと同じだ。

つまり、自分のことばかり考えている人は、自分のことがよくわからないという一見矛盾するような結論にたどり着く。自己認識力は他者理解深度に比例する。

かくして、自分自身をメタ認知できない人のストレングスファインダーは、他者から見ると非常に滑稽な結果になったというわけだ。

他者理解というのは、単純に自分の周りの人間に対する深い洞察を意味するのではなく、同時に自己理解がオマケでついてくる。とても楽しい旅だ。

さて、あまりにも前置きが長くなったが、ひたすらカウンセリングや人間観察に人生を費やしてきた私が、他者理解を深めるような3冊を紹介していきたい。

まず、ルールを破れ

まず、ルールを破れ―すぐれたマネジャーはここが違う (日本語) 単行本 – 2000/10/20

最初の一冊は、上記ストレングスファインダーでも少し触れたギャラップ社が、8万人のマネージャーと100万人の従業員に行った調査をもとにまとめたこの本だ。(2)

膨大で緻密なデータ分析の手法で、優れたマネージャーの条件を精査していくというのが一般的にいわれるこの本の魅力なのかもしれないが、その手のビジネス書はどこにでも転がっている。

私が、この本から強い影響を受けたのは「人に対する見方」だ。人をタイプ分けするのではなく、個として見ることをこの本は強く教えてくれる。

多くのビジネス書が人や組織を語る時に、タイプ分けを用いる。部下のタイプを3、4種類で分けてタイプごとにマネジメントの解説をしたり、組織のタイプを7つに分けて説明したりする手法は今日どこにでも見ることができる。

社内人材の上位が2割、真ん中が6割、下位が2割となって現れるという2:6:2の法則や、売り上げの8割は顧客全体の2割で占められているのような文脈で使われる8:2の法則など、タイプ分けの思考はどこにでもありふれている。

もちろんビジネス以外の人間理解でも、星座による占いや動物占い、どこの大学出身、どこの地方出身など人間の分析の仕方など、多くの場合、「あなたが誰なのか」ということがシンプルなタイプ分けで判断される。

もちろん、この手の手法が役に立つ場合も大いにあるのだが、もしあなたが友人から知らない人の話を聞いて「ああ、そういうタイプの人ね」というふうに軽く判断するとしたら、その思考は人間理解を妨げる可能性が高い。

冷静に考えたらわかるのだが、似たような性格を部分的に持っているからと言って、その人そのものを理解するということはあり得ない。その人は似ている誰かとも確実に違う感性を持っており、究極的にタイプ分け不可能なのだ。

本書の、例えばどういう人が長距離トラックの運転手に向いているかという洞察は、「無事故無違反である」「運転テクニックに優れている」などわかりやすくタイプ分けできそうな要素を使っていない。

表面的ではなく、個々人によって違いがある感性の話を出してくるのだ。

本書の、人をタイプではなく個として見る感性は、確実に私の他者理解に対する能力を高め、人生に大きな影響を与えてくれた。人に対する見方をより深めたい人にオススメだ。

他者と働く

他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論 (NewsPicksパブリッシング) Kindle版

続いては、昨年話題になったこの本。(3)

一言で言えば、職場の人間関係において難しい問題が発生してしまう原因と解決策を、ナラティブアプローチという手法を通して、シンプルながら深く掘り下げて説明している。

生きていく上で、あるいは幸せになる上で避けては通れない人間関係の構築や他者理解の仕方を、こんなにも納得いく形で解説している内容を私は他に見たことがなく、小学校や中学校の義務教育の中で徹底して教えるべき一冊であると言っても過言ではない。

この内容が実践されないが故に、難しくなっている人間関係をカウンセリングなどを通して数限りなく見てきたように思う。

本書は仕事における人間関係を意識して書かれているが、もちろん家族や友人などのプライベートな人間関係に関しても完全に応用可能だ。ビジネスじゃないとできない文脈で書かれているのではなく、普遍的な人間関係に関する内容だからだ。

こういう本を読むと、我々は本当に大切なことを教育機関で教わっていないんだなぁとしみじみ感じる。そのくらいオススメだ。このアプローチは確実に実践する人の他者理解を深めるだろう。

この本の内容に触れているブログの記事も良かったら参考にしていただきたい。

組織が変わるべきか個人が変わるべきか

2020年1月23日

こころの対話

こころの対話 25のルール (講談社+α文庫) Kindle版

最後は対話の本質とは何かを切実に訴えてくるこの一冊。(4)

大学教授が書いた『他者と働く』がアカデミックな研究を参考にして、それを現実的なアプローチにシステム的に落とし込んでいるのに対して、本書は実際に数多くのカウンセリング経験を積んできた筆者が、より臨床的な立場で人間の対話を紐解いている。

本書の特に素晴らしいのは、「聞く」ということの意味や重要性を、他に見たこともないくらい鋭い切れ味で説明していることだ。

普段多くの会話をしている私たちが、どれほど「聞く」ことができていないか、そしてそれによってどういう現象が起きているかという臨床の観点からの解説は、科学が高度に発達した社会で、いまだに何か満たされない私たちに必要なものは何かを教えてくれる。

上の2冊と同様に汎用性抜群なので、あらゆる人間関係に応用可能で、本書の内容を実生活に適応できた場合には、間違いなく他者に対する理解の仕方が変わるだろう。

『他者と働く』を義務教育で徹底して教育させたい一冊と紹介したが、こちらはどちらかというと、子供以上に話を聞く重要性を理解するべき、すべての大人に読んでほしい一冊だ。

こちらも内容に触れたブログがあるので、そちらの方も良かったら参考にしていただきたい。

会話はキャッチボールではなく、ドッジボールになりやすいという罠

2020年10月31日

参考・引用
(1)https://www.gallup.com/cliftonstrengths/ja/253634/ホーム.aspx
現在では「クリフトンストレングス」と名称が変更したようだ。

(2)マーカス・バッキンガム『まず、ルールを破れ −すぐれたマネージャーはここが違う』日本経済新聞社、2000年

(3)宇田川元一『他者と働く –「わかりあえなさから」から始める組織論』ニューズピックス、2019年

(4)伊藤守『こころの対話 25のルール』講談社、2000年

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IQ155オーバーだが、自信があるのはEQ(心の知能指数)の方で、繊細な感受性の持ち主。 大学時代に週末はあらゆる大学生と人生を語り合うことに費やした結果、人を見下していた尖り切った人生から、人の感情を共感し理解する相談役の人生へとコペルニクス的転回を果たす。 これからの時代は感情の時代になると確信しており、感情のあり方が幸せに直結するとの考えから、複雑な感情の流れを論理的に整理することに挑戦している。 モットーは Make the invisible visible 詳しい自己紹介はこちら