なぜ、感情について考えるのか②

もう1つの事例

前回に続いて、感情について考える面白さについて考えます。

なぜ、感情について考えるのか

2019年9月14日

紹介したいもう1つの事例は、アメリカのコンサルタントであるカレン・ファラン氏が内部事情を暴露した『申し訳ない、御社をつぶしたのは私です』からとりあげます。(1)

コンサルタントとして彼女が企業の業務改善プロセスに携わる中で、問題として何度も浮かび上がってきたポイントを4つ挙げていますが、その内容が実にユニークです。

最大の問題は感情

彼女が最大の問題としてあげているのは、「不信」です。部門同士が連携を取らずバラバラに仕事をした結果、お互いに相手の部門がやっていることがめちゃくちゃに思えてくる。その結果、駆け引きや腹の探り合いが始まり、業務に大きな支障を引き起こすというものです。

そして、4つのポイントの他の要素として、「バカだと思われたくない」という内容も主張しています。とても興味深い表現です。

例えば新商品開発をするメンバーであれば、完璧なコンセプトができるまでは他の部門の人間に話したくない。そして長い期間をかけてコンセプトが完成したと思ったら、実は法律や製造面の問題で商品化が無理だったりする。本当はコンセプトが未完成のうちに関係者に見てもらえれば早い段階でボツにできたとしても、バカだと思われたくない気持ちが邪魔をするのです。

問題へのシンプルな処方箋

そして、こういった問題に対処する上で、彼女が一番効果を発揮したと書いているのは、単純な話し合いだったということです。問題は業務プロセスにあり、人間にあるのではないとしながら、感情的にならないようにそれぞれの事情を整理することで、みんなが思いやりを持つようになるという極めて古典的な手法です。

このように、従業員同士の感情的ないざこざを整理することが最も効果を発揮するとわかっていながら、上にはそのような報告は通じないため、あたかもロジカルにデータを分析してコンサルらしく報告していたというのが彼女の告白です。また、残念ながらこのような感情的なポイントを業務プロセス改善の文献で指摘しているのを見たことがないと彼女は語っています。

「不信」や「バカにされたくない」はどこにでも顔を出す

このような事例は、仕事の場に限らず、何気ない日常生活から国際問題に至るまでいくらでも見受けられます。二国間の政治的対立も、結局は「その国が嫌い」とか「世界からバカにされたくない」という感情が根底にあるのを、あたかも正当で論理的な理由があるかのように説明しているだけだったりします。

会社や政治の議論を見ていても、当初の目的は「より効果的な解決策の提示」だったはずなのに、自分の論を否定されたことで「相手を言い負かしたい」が目的になる光景もしょっちゅう見かけます。

「嫌い」「バカにされたくない」「評価されたい」「信じられない」「言い負かしたい」このような感情はあまりにも大きく、すでに土台にある場合はこの感情を正しく見抜けないと、良いコミュニケーションにそもそもなりません。

自己中心な感情と付き合う

自己中心的な感情になることを幼稚だとか、わがままだと言いますが、そうやって目をつむっても仕方ありません。何故なら、私たち全員が多かれ少なかれそういう感情に支配されて生きているからです。

そうだとしたら、それを認めた上で、そういう感情とどう付き合っていくか。それを考えた方が建設的なのではないか…というのが私の意見です。それをAIにやらせるのは繊細すぎてとても難しいのではないかと感じています。人間の感情を0と1だけで表現するのは無理があると思うからです。

また、このような負の感情がコミュニケーションを大きく阻害していることを感じられるようになってきたら、どういう人がその感情に支配されやすいのか、そういった感情をコントロールするにはどうしたら良いのか、感情をうまくコントロールできたとしたらコミュニケーションがどう良くなるのかなど、新たな視野が生まれてきます。

幸せを求めた感情の旅

私個人の話で恐縮ですが、人生で一番有意義だった体験は、多くの人と深い話をし続けてきたことです。そうすると、どういう家庭環境や家族構成の人がどのような感情になりやすいなど、感情の流れが見えるようになってきます。さらに他の人の人生や感情を理解すればするほど、自分自身の感性や人生というものが浮き彫りになってきます。それは、留学や転勤などで海外での生活を経験した人が、日本という国がどういう国なのかを深く理解する現象に似ています。自分の枠の外にある景色が自分の中にあるものと違うことを理解して初めて、自分が何者なのか見えてくる。

その分野は、物質社会で満たされに満たされた現代人にとって、とても面白いと思っています。先進国が発展途上国に比べて幸福度が高いわけでも自殺者が少ないわけでもないとわかってしまった今の時代、人間は物質だけでなく、人間同士の関係の中でもっと幸せになるべきなのではないか、そのために幸福な感情をどう生み出していくのか、考えていきたいものです。

参考・引用
(1)カレン・ファラン『申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。』大和書房、2014年

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ABOUTこの記事をかいた人

IQ155オーバーだが、自信があるのはEQ(心の知能指数)の方で、繊細な感受性の持ち主。 大学時代に週末はあらゆる大学生と人生を語り合うことに費やした結果、人を見下していた尖り切った人生から、人の感情を共感し理解する相談役の人生へとコペルニクス的転回を果たす。 これからの時代は感情の時代になると確信しており、感情のあり方が幸せに直結するとの考えから、複雑な感情の流れを論理的に整理することに挑戦している。 モットーは Make the invisible visible