山口周さんによる名著『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』がベストセラーになった2017年あたりから、ビジネスでは論理性だけではなく直感や美意識に大きく光が当たり始め、その重要性が強く訴えられるようになってきました。
しかし、今やビジネスだけではなく、私たちの生活全般にわたって自分の直感に従ってライフスタイルを選択していくことが求められているのがこの現代。
服装や車選びといった昔から選択が必要だった事柄だけではなく、そもそもどこの国に住むのか、結婚するのかしないのかなど根本的な選択が可能になり、趣味においてもネット環境が整ったことにより無限とも思える選択肢を現代人は得ています。そして、それに伴い人間関係の選択肢も爆発的に広がっています。
それでは、どのようにしたらセンスを磨き、それを無駄にしないで活かすことができるでしょうか。今回は特に、センスを潰さないという点にフォーカスして考えてみます。
センスを磨く方法
センスを磨く方法に関しては、様々な音楽や絵画などの芸術、文学や哲学における思想など、様々な価値観が色濃く反映されているものに触れていくというのが一つ有力な方法だと思います。
その最重要なのは、「正しいか間違っているか」「上手いか下手か」というフィルターで見ないことです。その軸で見てしまうと結局アートに触れる意義がなくなってしまいます。
しかし、残念ながらそれが難しいのは、子供の頃から受ける学校教育では上の2つの観点を強調されるため、私たちが何も考えずにいると、無意識にその判断軸に流れてしまうことです。
それでは、どのフィルターで見るのかといえば、「美しいか美しくないか」「(論理的にではなく直感的に)良いと感じるか嫌だと感じるか」「面白いか面白くないか」などで見つめていくと、自分の美意識が浮き彫りになるとともに、少しずつ磨かれていくと思います。
その際、どれを良いと感じようと、どれを美しいと感じようと、正解不正解はありません。また、周りが良いと思ってるか悪いと思っているかは全く考慮する必要はありません。むしろ、あなただけの美意識を追求するべきです。
例えば美大生が(一般的な視点からすると)少々変わった服装で歩いていたりするのも、彼らが周りの目というよりも独自の美意識を追求しているからこそであると言えると思います。
センスが潰されてしまう現象
それでは今日の本題です。
残念ながら自分の中のセンスを磨いても、それが見事に潰されて消えてなくなっていくというシーンをこれまで何度も見てきました。果たしてそれはどういうことなのでしょうか。
もし自分の中で良いあるいは美しいと思える感覚が、周りの人間にとって全く通じない上にそれを否定される環境にいる場合とても注意が必要です。
よくあるのが組織の中にいて意味のないルールやブラックな風習に対して最初は違和感を感じたのにも関わらず、そんなものかと自分を無理に納得させた結果、時間とともに疑問を抱かなくなり、今度はそれを押し付ける側に回ってしまうという現象です。
そこまで行ってしまうと、本人が元々持っていた美意識を見失ってしまい、凝り固まってしまいます。大切なのは最初に感じる違和感で、自分が変だと感じるものを無視するのは長期的に見ると大変危険です。
編集者として飛ぶ鳥を落とす勢いの箕輪康介さんの『死ぬこと以外かすり傷』に面白いエピソードが載っています。
先日 、ある新入社員から相談を受けた 。 「 × ×という企画を進めようと思うんですけど 」と訊かれたので 、僕は 「その × ×って 、やる意味なくない ? 」と一刀両断した 。すると新入社員は 「ああ 、やっぱりそうですよね 。上司の △ △さんからやるように言われたので 」と言う 。僕ははっきり言った 。 「お前がやる意味ないと思っているのならここが別れ道だ 。意味がないことを知りながら上司のために仕事をすることは真面目でも何でもない 。むしろ不真面目だ 。代案を考えて 『意味ない 』と言ってこい 。疑問に思ったことを飲み込んで 、言われたとおりに仕事する 。そんな無難な道を 3回歩いたら二度とこっちに戻ってこれなくなるぞ 」
箕輪さんは、3回自分に嘘をついてしまったら戻って来れなくなると表現していますが、個人的にもその通りだと思います。自分に嘘をつくことが習慣化してしまったら、もう自分の美意識やセンスで生きるということ自体難しいのです。
自分に嘘をつかないために
とは言え、普通に社会生活を営むためには、時に自分に嘘をつかなければいけないと感じる人が多いのではないでしょうか。
自分に嘘をつかなければいけない部分をすぐに全部なくすというのは現実的ではないかもしれませんが、最初に述べたように、選択に多様性がある現代だからこそ可能性もあります。
もし職場の雰囲気や身の回りの人間関係で、あなたが自分に嘘をつかなければやっていけない、つまり直感的な違和感を多く感じるのであれば、環境を少しずつでも変えることをオススメします。
例え、経営的にはうまくいっている職場であったり、周りの人間に能力があり善人であったとしても、あなたのセンスと全く違う故に自分に嘘をつきながら生きていかざるを得ないとしたら、自分のセンスで生きることは遅かれ早かれ出来なくなることでしょう。
これだけ多様性のある社会であれば、あなたのセンスを尊重してくれる、あなたのセンスを発揮できる環境というものも見つけやすくなってきているはずです。それを探していくことがこれからの大きな流れになると感じています。いや、もうすでにそうなっているのかもしれません。
世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?~経営における「アート」と「サイエンス」~ (光文社新書) Kindle版
参考・引用
山口周『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』光文社、2017年
箕輪康介『死ぬこと以外かすり傷』マガジンハウス、2018年
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